IMAG0754

沢慶司さん (サントリーホールディングス株式会社 戦略開発本部 国際戦略部)

国際化の流れの中、海外への留学を選択肢の1つに考える人が増えています。
しかし、留学はただ行けば良いというものではなく、本当に大事なのは、どれだけ充実した留学を実現できるか、そしてその経験をどう活かしていくのか、という部分です。
今回はオランダのビジネススクールに留学し、南アフリカでのインターンシップを経験された沢慶司さんにお話を伺いました。

 

---- 留学した学校について教えてください。

勤めている会社から派遣という形で2012年からロッテルダム・スクール・オブ・マネジメント(RSM)に留学しました。
15か月のプログラムで、そのうち学校での授業は12か月、残りの3か月はインターン期間となっています。
学校は、会社から指定があった「ファイナンシャルタイムズの世界ランキングでトップ30以内」と「1年のプログラム」の二つの条件の中で探しました。
さまざまな学校のなかで「40ヵ国から生徒が集まる多様性のあるダイバーシティあるプログラム」に惹かれ最終的に選びました。

 

---- なぜ留学しようと思ったのですか?

子供時代にアメリカに5年、フランスに7年住んだ経験から、いつか海外でビジネスをしたいという思いがありました。
また会社のマネジメントに携わりたいという思いがあった一方でこれまでの経験では足りないものがあると感じていて、「ビジネスを体系的」に学びたかったのです。
そのため留学を通じて海外でビジネスを学びたいと思っていました。

勤めている会社にいままで海外留学の派遣制度はありませんでしたが、海外進出を進めていくために人材育成が必要と2012年に海外留学派遣制度が出来ました。
私はその1期生として留学することができました。

 

---- 留学したRSMについて教えてください。

RSMは他のMBAの学校と比較して103名と規模は小さめですが、高品質な授業を提供する少数精鋭の学校として欧州のトップスクールとして有名な学校です。
また、オランダということもあり水などの環境問題やサステナビリティでも有名な学校です。
ビジネススクールというとコンサル、金融などの業種に偏りがちですが、メーカー出身者も多く、また100名ちょっとですが、出身国は40か国にもなる、ダイバーシティが魅力です。

 

---- 留学中の様子について教えてください。

RSMは特に5〜6人でチームを組んでプロジェクトを進行するチームアサインメントに力を入れており、授業が終わった後や週末に寮に集まってみんなで宿題を行うなど勉強していました。
私の1学期のチームは台湾・インド・カナダ・ドイツ・ナイジェリアと6ヵ国から集まった6人のチームで構成されており、まさにダイバーシティの楽しさと大変さを学ぶことができました。
また良かったのが、peer reviewです。
これは学生同士が相互に評価し合うもので、チームメイトから様々なフィードバックが得られ大変勉強になりました。

勉強以外のことでいえば、私がワインに詳しいこともあってワインセミナーを開催したり、週末クラスメイトとサッカーをしたり異文化コミュニケーションを楽しみました。
面白いことにサッカーをやっていると各国の文化が出るんです。
例えば自分のチームがリードしている状況で、私が攻めようとしたら、同じチームのイタリア人にえらく怒られたことがありました。
イタリア人にとっては、サッカーは遊びではなく、勝利するもの、リードしている局面ではリスクは冒さないということだったみたいです。
遊び1つにも文化の差を感じました。

 

---- 留学中に気を付けていたことなどありますか?

クラスメイトは将来のビジネスパートナーだと考え、ネットワーキングはかなり意識していました。
具体的には、5〜6人づつ自宅の夕食に招待するようにしました。
同級生全員を招待しようと考えていたので、ほぼ毎週末の夕食は誰かを招いているような感じでした。
プライベートでのコミュニケーションでは、普段見えていなかったこともわかり勉強になりました。
異なる宗教の方やベジタリアンを招くさいの注意点も日本の生活ではわからなかったことを学べることができました。
私は子供もいたので、家族の様子を見せながら、こんな家族にしたいと思ってもらえたら、という思いもありました。

留学の終盤で、クラスの中で、誰がどのような影響力を持っているか、というテストをしたんです。
クラスメイト全員がテストを受けて色んな質問に答えていくのですが、それを集計すると、最終的にだれが情報のハブになっているかがわかるというテストです。
このときは、私がクラスで最も影響力を持つ人間ということで選ばれました。
自宅でのパーティのおかげですかね(笑)

 

---- インターンシップが3か月あったということですが、これについて教えてください。

インターンシップは南アフリカのGIBS(Gordon Institute of Business Science)というビジネススクールとジェトロでやりました。
なぜアフリカかとよく聞かれます。

理由の1つは日系企業がまだ進出していないエリアに行って、そのエリアのことを学びたいという思いがあったからです。
もう1つの理由は、ヨーロッパにいるとアフリカが身近なことでした。
日本人にとってアフリカというのは遠い存在かもしれませんが、ヨーロッパ人にとっては、日本人にとっての中国や東南アジアのように次なるチャンスはアフリカにある、という感覚なんです。
なので、ヨーロッパにいて、アフリカに行くというのはあまり違和感なかったですね。

 

---- アフリカの中でなぜ南アフリカだったのでしょう?

アフリカというとエジプトとかナイジェリアが注目を集めることが多いですが、実は情報のハブになっているのは南アフリカなんです。
国際会議なども多く開かれ、アフリカのなかでの存在感は抜きんでています。
ということで南アフリカに行くことにしました。

 

---- どのようにインターンシップを獲得したのですか?

南アフリカでインターンの公募をしているところなんてないので、色々な会社にホームページから連絡を取ろうとしました。
ですが、どこからも連絡ありませんでした。
考えてみれば当たり前ですが、日本の会社に南アフリカ人がインターンをしたいと突然メールを送ったところで、どの会社も無視しますよね。
それと同じです。

ということで、今度は色々な人脈を使って探すようになりました。
まずクラスメイトのアフリカ人から、RSMに南アフリカ出身の教授がいると聞いて、その教授に会いに行きました。
そこから南アフリカのビジネススクールGIBSの学長を紹介してもらい、学長からGIBSの日本研究センター(Centre for Japanese Studies)の所長であり、一橋大学イノベーション研究センターの米倉先生に連絡を取り、リサーチャーとして働く許可を得ました。
また、そこからジェトロを紹介してもらい結果的にGIBSとジェトロの2カ所でインターンシップをすることになりました。

インターン獲得にあたっては、とにかく自分から動くことと、そしてキーパーソンに会ってもらえた時には自分が相手にとって価値のある人間だと思ってもらえるようにすることに気を付けました。

 

---- インターンの内容はどのようなものですか?

GIBSでは、現地の日系企業と南アフリカの企業と政府機関のぞれぞれのニーズとお互い感じている問題点を明確にし、どのようにそのギャップをうめていけるかを話し合う会議を設け、運営することでした。

ジェトロでは、南アフリカの鉄道購入における日本の入札のためのアピールするためのお手伝いをしました。
日本の良さがどこにあり、どのような付加価値を提供できるのかを日本の政府機関・商社・メーカーとチームになって南アフリカの政府機関・地元の有力者の方々に伝えるイベント・セミナーの運営を行いました。

 

---- 留学の経験はその後どのように活きていますか?

世界は変化しています。

今多くの人が就職したいと思っているGoogleやAmazonなどの世界的企業も10年前はほとんど知っている人が少なかったはずです。
逆に10年前に多くの人が入りたいと思っていた会社で今は消えてしまった企業もたくさんあります。

こんな変化が大きい時代に、RSMの同級生たちが40ヶ国にいるというのはとても大きいと思っています。
言わば1つの情報源に依存せず、40か国にアンテナを持っていることになります。

こんな変化の時代に強いのは自身も変化できる人です。
いざとなれば住む場所も変えられるという考え方も必要です。

また今後、いろんな国に行ったときに、そのアンテナやネットワークが活きてきます。
現地で現地の人を採用することもあるでしょうが、そこで初めて会うような人を本当の意味で信用することはすぐにはできません。
でも、1年間苦楽を共にしたクラスメイトは信用できます。
彼らの助言やサポートはこれから海外でビジネスをしていく上で非常に助かります。

私自身、4月からは海外向けの仕事に携わります。
ネットワークも生きるし、留学で身につけたマクロ的な見方も生きるだろうと思っています。

 

---- 留学経験を活かしている人はどのような人ですか?

成功している人は留学前から目的意識を強く持っている人が多いと感じています。
例えば、日本から出て仕事をするという目的を持っていた人は、実際に留学中もどんどんコネクションを作って、今その目標を実現しています。
逆に日本でステップアップすることを目的にしている人もいましたが、そのような人は留学中も日本に戻ってインターンをしたりしていました。
そして帰国してからも転職も含めてどんどんステップアップしています。

一番ダメなのはどっちつかずの人です。
「海外で就職できるといいなあ」
というレベルの人は、思いを実現できず結局流されて終わっています。

その意味で留学で何を獲得するか目標を持つことはとても大事なことと思っています。